「人間中心デザインって何?」
「UXデザインと何が違うの?」
このような疑問をお持ちではないでしょうか?
人間中心デザインとは、利用者の目線に立ってシステムを設計することで、プロダクトをより使いやすくすることを目指す考え方です。とはいえ、抽象的な概念であるため理解しにくい部分も多いでしょう。
そこで本記事では、デザイン・エンジニアリング両面からサービスの設計・開発を行っているFlowzが以下の内容について詳しく解説します。
- 人間中心デザインとは
- 人間中心デザインにおける6つの原則
- 人間中心デザインにおける4つのプロセス
UXデザインとの違いや、プロダクトの設計・開発に人間中心デザインをどのように活かすのかについても解説したので、ぜひ最後までお読みください。
なお、Flowzではデジタル領域でのサービス設計、プロダクト開発の視点からお客様のビジネスをサポートしています。お困りごとがある方はぜひお気軽にご相談ください!
人間中心デザインとは
まず、人間中心デザインとは何かについて詳しく解説します。
- 人間中心デザインの定義
- 人間中心デザインとUXデザインの違い
- 人間中心デザインの資格
1. 人間中心デザインの定義
人間中心デザインとは「人間を中心とした設計をする」というものづくりにおける考え方を指します。国際規格「ISO9241-210:2010」には、以下のように定義されています。
システムの使用に焦点を当て,人間工学及びユーザビリティの知識と手法とを適用することによって,インタラクティブシステムをより使えるものにすることを目的としたシステムの設計及び開発へのアプローチ。
引用:ISO 9241-210:2010の翻訳版
人間中心デザインが目指す「使いやすさ」とは、生産性の向上のみならず、ストレスを回避したりユーザーに危害が及ぶリスクを小さくしたりすることなどが挙げられます。
また「ユーザー中心」ではなくあえて「人間中心」という言葉が使われているのもポイント。その理由は、製品やシステムを利用するユーザーだけでなく、さまざまな立場の関係者にとっても使いやすいデザインを目指すという意図があるからです。
ただし、一般的には人間=ユーザーという意味でとらえられることが多いので「人間中心=ユーザー中心」と解釈しても、基本的には問題ありません。
2. 人間中心デザインとUXデザインの違い
人間中心デザインとUXデザインの違いは、言葉が指し示す範囲です。
人間中心デザインは、ユーザーが使いやすいように製品やサービスを設計すること。一方、UXデザインは、ユーザーが製品やサービスを通じて経験する全ての経験をデザインすることを指します。
人間中心デザインは「使いやすいプロダクトを設計すること」を目指す考え方で、UXデザインは使いやすさのみならずブランディングやマーケティングの領域も含まれます。両者に共通しているのは、よりよいユーザー体験を生み出すことが目的である点です。
つまり、人間中心デザインは優れたUXを生み出すための1つのプロセスと言えるでしょう。
UXデザインについては、こちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧ください。
3. 人間中心デザインの資格
人間中心デザインの領域には、人間中心設計推進機構が主催している資格制度があります。審査は書類によって行われ、過去に取り組んできた人間中心設計やユーザビリティーにまつわる活動を審査書類に記入して提出するスタイルです。
人間中心デザインの認定資格は、以下の2種類あります。
人間中心設計専門家 | 人間中心設計スペシャリスト | |
資格概要 | 人間中心設計の実務能力と、マネジメント能力をあわせた、統合的な専門家 | 人間中心設計の基本的な実務能力をもつ実務担当者 |
受験資格 | 実務経験5年以上 | 実務経験2年以上 |
受験料* | 12,000円(消費税10%込) | 12,000円(消費税10%込) |
認定登録料* | 18,000円 | 11,000円 |
更新料* | 5,000円(3年ごとに更新) | 5,000円(3年ごとに更新) |
これらの資格を取得すれば、人間中心デザインの領域で専門性が証明できるため、社内外で評価されたりキャリアアップにつながる可能性があるでしょう。
人間中心デザインにおける6つの原則
次に、人間中心デザインにおける6つの原則を国際規格「ISO 9241-210」に基づいて紹介します。
- ユーザーやタスク及び環境の明確な理解に基づいて設計する
- 設計及び開発の全体を通してユーザーが関与する
- ユーザー中心の評価に基づいて設計を方向付け改良する
- プロセスを繰り返す
- ユーザーエクスペリエンスを考慮して設計する
- 設計チームさまざまな専門分野の技能及び視点をもつ人々がいる
1. ユーザーやタスク及び環境の明確な理解に基づいて設計する
人間中心デザインにおいて、ユーザ・タスク・環境の3つを正しく理解するところから始めることは非常に重要です。
開発するプロダクトがどういった状況でどのような人に何をするために使われるのかが定まっていないと、良いシステムは作れません。
ユーザー | どのような人が使うのか(年齢・性別・リテラシーの有無など) |
タスク | 何を達成したいのか(プロダクトを使う理由:ネットショッピングをするなど) |
環境 | どのような状況で使用されるのか(PC・スマホ・タブレットなど) |
人間中心デザインにおいて、使う人のことを考えることは最優先事項です。プロダクトを設計する前に、ユーザーが利用する状況を詳細にイメージしておく必要があるでしょう。
2. 設計及び開発の全体を通してユーザーが関与する
プロダクトの設計開発を進めるうえで、実際にプロダクトを使用するユーザーからフィードバックをもらうことで、より利用者の目線に立ったプロダクトに近づけます。
ユーザーにプロダクトの試作品を操作してもらい、使いにくい部分やわかりにくいところを聞き取って設計に反映させれば、使いやすさに磨きがかかります。実際にプロダクトをユーザーに操作してもらうことで、開発者やデザイナーなどの作り手側では、気づけない改善点が見えてくることは多いでしょう。
完成間近のタイミングではなく、こまめにユーザーテストを挟めば、早めの修正が可能になり大幅な手戻りを防げます。
3. ユーザー中心の評価に基づいて設計を方向付け改良する
人間中心設計において、最優先されるのはユーザーです。プロダクトの開発者やデザイナーが「こういうモノを作りたい!」という気持ちを優先させるのではなく、利用者が求めているモノを作らなくてはなくてはいけません。
そのためにも、開発段階からユーザーの声をこまめに聞くことは重要です。ユーザーに試作品を操作してもらい、理解しにくそうな部分やつまずいている部分があれば、開発の方向性を日々調整しましょう。
4. プロセスを繰り返す
プロダクトは一旦完成したら終わりではなく、再度評価し課題を見つけ、発見した課題を解決するというサイクルを繰り返すことで洗練されていきます。
このサイクルを1周しただけでは、改善点がまだ数多く残されているケースがほとんどです。何回もPDCAサイクルを回して、完成度をあげていきましょう。
なお、プロセスの具体的な内容は、次章で解説する「人間中心デザインにおける4つのプロセス」で解説します。
5. ユーザーエクスペリエンスを考慮して設計する
人間中心デザインとユーザー体験は切っても切り離せません。
そもそも人間中心デザインの目的はより良いユーザー体験を生み出すことです。そのため、「UXデザインとして優れているか」は常に配慮すべきと言えるでしょう。
UXデザインを考慮するには「操作がしやすい」「分かりやすい」といった、表面的な部分に留まっていはいけません。
例えば「ユーザーはどのようにプロダクトを認知するのか」「トラブルが発生したらどのように対応するのか」など。ユーザーが体験するありとあらゆる状況を想定する必要があります。
6. 設計チームさまざまな専門分野の技能及び視点をもつ人々がいる
ユーザーにとって使いやすいプロダクトを開発するには、さまざまな分野の専門家が各知見を共有できる体制を整えるようにしましょう。
ひとつの分野だけでは、ユーザー体験を網羅的にフォローするのは不可能です。
例えば、オンラインカウンセリングサービスを開発するのであれば、以下のような専門家の知見が求められるでしょう。
専門家 | 担当領域 |
プログラミング | システム開発 |
マーケター | サービスの集客・認知拡大 |
UIデザイン | アプリのデザイン・ユーザビリティの担保 |
カウンセラー | 顧客対応 |
つまり、さまざま領域の専門が集結して一つのプロダクトはできあがっているのです。
人間中心デザインにおける4つのプロセス
最後に、人間中心デザインにおける4つのプロセスについてみていきましょう。
- 調査:利用状況を把握する
- 分析:ユーザー要求事項を明らかにする
- 設計:ユーザーが求めていることを実現させる設計案を作成する
- 評価:設計を評価する
なお、国際規格「ISO9241-210:2010」には、人間中心デザインのプロセスについて以下のような概略図でまとめられています。
概略図を見るとわかるように、1〜4のプロセスは循環しています。つまり、何回もこのプロセスを繰り返し、プロダクトをブラッシュアップしていく必要があるのです。
1. 調査:利用状況を把握する
まず、利用者を調査し、開発しようとしているプロダクトがどのように使われるのかを明確にします。想定されるユーザーがどのような人で、抱えている課題は何かを明らかにしないと、期待に応えられるプロダクトは作れません。
調査方法は、アンケートを実施したりインタビューを行ったりする方法があります。
ユーザーの行動やその背景にある要因を見つければ、プロダクトに盛り込むべき機能や要素が見えてくるでしょう。
2. 分析:ユーザー要求事項を明らかにする
次に、ユーザーから得られた情報をもとに、何を求めているのかを分析します。ユーザーのニーズが分かれば、設計や開発の方向性を決められるからです。
分析する方法としては、ユーザーが商品やサービスを購入するまでのプロセスをまとめた「カスタマージャーニーマップ」を活用すると良いでしょう。
カスタマージャーニーマップを作成すれば、ユーザーの要求事項を明らかにすることに加え、制作メンバー間で認識がずれることを防げます。
なお、カスタマージャーニーマップについては、こちらの記事でも詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧ください。
3. 設計:ユーザーが求めていることを実現させる設計案を作成する
ユーザーの要求事項を明らかにしたら、ようやく設計に移れます。
いきなり完成版の作成を目指すのではなく、まずはプロトタイプを設計しましょう。プロトタイプを設計するためには、開発しているプロダクトのユーザー像である「ペルソナ」を明確に定める必要があります。
ペルソナには、インタビューを行ったユーザー層を設定すると良いでしょう。
想定したペルソナが問題なく使えるようなプロトタイプを作成できれば、完成形に近づいている証拠と言えます。
4. 評価:設計を評価する
最後に、設計を評価します。作成したプロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、使い心地などを評価してもらいましょう。
評価のプロセスは高評価をもらうことが目的ではなく、改善すべき点を洗い出すための工程です。ユーザーにプロトタイプを使ってもらうことで、制作陣が見つけ出せなかった改善点を発見できます。
開発側が「こうすればわかりやすい!」と思っていたことでも、ユーザーに操作してもらうとわかってもらえないことは珍しくありません。
完成品を出す前に、プロトタイプでPDCAを繰り返し、プロダクトをブラッシュアップしていきましょう。
人間中心デザインに沿ってユーザー視点に立ったプロダクトを開発しよう!
人間中心デザインの考え方に沿ってプロダクトを設計・開発することは、優れたUXデザインを達成するうえで重要です。ユーザーに寄り添ったプロダクトを作るには、開発途中でユーザーから何度もフィードバックを受けて、ブラッシュアップを繰り返す必要があるでしょう。
なお、弊社Flowzではデジタル領域でのサービス設計、プロダクト開発の視点からお客様のビジネスをサポートしています。UXデザインを自社サービスでも活かしたい方は、ぜひFlowzにご相談ください!