デザインの重要性とは?
これまでのキャリアを振り返ってみると、制作会社のデザイナー→インハウスデザイナーとして働いていたので、自分が与えられたサービスやイシューに対して向き合うことがとても多かったです。ですがその時にみていた景色と、起業してから事業を立ち上げた時に見えてくる目線では大きく変わるのだなとヒシヒシと感じております。
環境が変わったこともあり、それに伴い会話する相手、ステークホルダーの役職も大きく変わり、経営者や事業責任者、意思決定権を持つ方などが増えてきました。その方々とコミュニケーションを進めていくと、「デザインって大切だよね」「ユーザー中心であるべき」といった内容は頻繁に会話することは多いのですが、ふと立ち返ると、「何故重要なのか」「どういったもの・成果に寄与するのか」を言語化・定義化できていないのではと思うようになりました。
今回は、自戒も込めて、「なぜデザインに投資するメリット」を書いていければと思います。
デザインに投資するメリット
1. 意思決定コストを下げれる
意思決定コストはあまり耳にしないワードかなと思いますが、普段意識せずとも必ず発生しているコストのひとつかなと思います。普段、サービス設計、仕様設計、フロー設計など多くの設計を実施していると思いますが、特に事業立ち上げ時期に関しては不確定要素も多く意思決定に時間がかかってしまう傾向にあります。
それは、当たり前で、想定されるユーザーの属性・行動・環境・感情などのユーザー情報や、提供するサービスが属す業界や市場動向などがわからない中で何が大切なのか、何を行動に移すべきなのかわからずに意思決定するのはとても困難なものです。
不確実で、よめない社会において、成功確率をあげるためには、情報収集が必要であり、その得られた情報から事業において必要なキーファクターを抽出する必要があります。インターネットの進化や、インタビューを気軽に実施できるサービスが増えたことに伴い、情報収集は以前に比べとても容易になりました。
ただ一方で、多くの情報にアクセスできるようになった結果、得られる情報は膨大となり、意思決定においては何を重視すべきなのか混乱しやすい状況になってしまいました。情報が集まっている状態が強かった時代が、集まりすぎて混乱してしまっている状態になっているというのは少し皮肉ですね。
そこで必要になってくるのが「Information Architecture (情報デザイン)」です。情報デザインと言われてもどういったものを指しているか少し曖昧になってしまうので、ここでは「情報」を「整理し、活用しやすい状態にすること」と定義します。
集めた情報を、整理し、グルーピングすることで、情報と情報の比較が容易となり、共通項・相違を認識しやすくすることが可能となります。情報という目に見えない無形物を扱うからこそ、あえて目に見える形で整理することで、フォーカスする対象が明確となり、比較しやすい状態となります。
目に見える形にするということは、整理した自身だけではなく、他のステークホルダーとの共通言語の構築にも大きく寄与します。暗黙知であった他メンバーが持っている情報を書き出し共に整理することで、組織における形式知に変換することが可能となり、意思決定までのコストを大幅にカットすることができます。
「3人よれば文殊の知恵」ですね。
2. 組織間の運用コストの削減
サービスを提供する上では、組織においては多くの役割の方々が関わります。Saasなどのサービスであれば、プロダクト開発に関わる組織や、THE MODELなどをベースにした営業組織、ユーザーのお困りごとを解決するカスタマーサポート(以下CS)などさまざまな役割のメンバーが存在します。
小さい組織においては、複数の役割を兼業しているメンバーも多いため情報共有にかかるコストは低いですが、組織が大きくなり分業化が進めばそのコストはとても膨大なものとなった結果、組織によって得られている情報に格差が生まれ、提供するサービスに一貫性がなくなってしまうことも。
その結果として、それらをリカバリーするための運用コストが膨大になってしまいます。
では、運用コストを下げるために分業化を辞めてしまうと、それぞれの役割や責任の所在が不明瞭となり、現実的にワークしなくなってしまいます。
そこで、デザインの出番です。どうしてもデザイナーというと、社外の顧客やユーザーに対しての表現を担う役割に思われがちですが、社内の整理にも一役買います。いつもはユーザー自身の環境や、関わるステークホルダーを整理しますが、そのユーザーの対象を顧客ではなく、社内のメンバーにおくことで、誰がどのような役割でどういう形で影響を及ぼしあっているのかを整理することが可能です。
どの役割を持つメンバーがどんな人と関わっていて、だからこそどんな情報に長けていてという情報をビジュアルで表現することによって、役割の明確化や必要な情報の収集先を明らかにすることができます。
組織図だけではわからないその組織の特徴や動きを明確にすることが、運用コストの削減に紐付きます。
3. サポートコストの削減
急にサポート観点の話になりましたが、デザインとは切っても切り離せません。特に仕様設計・UIデザインを担うデザイナーにとっては切っても切れない関係性のものです。
例えば、設計した機能がユーザーに対してリリースされたとしましょう。Saasにおいてはその機能を認知するのは管理者またはサービス上での通知で気づくこととなります。実際に使い始めてみると、使い方がわからなかったり、バグが多かったり、自分の思ったアウトプットを出力してくれなかったり。。。ユーザーがそれらの問題を解決しようと問い合わせる先は管理者 or CSになります。
問い合わせてくれるならまだしも、それをきっかけに使わなくなってしまえば元も子もありません。そうなってしまうと、エンドユーザーだけではなく、システム管理者も導入目的を達成できず、それらのしわ寄せは直接コミュニケーションをしている営業の方の工数、サポートを担っているCSの方の工数などまわりまわって見えない形でコストが増えてしまいます。
だからこそ、仕様設計・UIデザインを担うデザイナーにとっては、ユーザー理解が必須となるわけです。ユーザーがどのような目的で、どういったアクションを普段しているのかなどのユーザー理解が進んだ組織において設計されたUIであれば、ユーザーが利用に悩むことも最小限となり、その結果問い合わせの工数も削減することが可能となります。
リリース時点での設計はあくまでユーザーに対する仮説であり、ゴールではありません。その仮説の検証を長期で検討し、改善サイクルをまわすこともサポートコストの軽減へとつながるわけです。
最後に
ここまでデザインに投資するメリットを3つ書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?マッキンゼーが出している資料においてもデザインに投資している企業とそうでない企業では、売上に差があるといった結果や、Normanグループが調査した結果でもいまだにデザインに投資をしている企業におけるROIは上昇しているという結果が出ています。
様々な場所で、デザイナーがデザインを担うには責任が重すぎるというワードが見受けられます。デザインをデザイナーだけで担おうとするのではなく、組織としてサービスデザインをしていく体制や環境が必要になってきているわけです。ただ、組織がデザインに向き合うきっかけを作るにはデザイナーが必須であることも確かです。
課題を解決するために、無形物を目に見える形でアウトプットすることが得意なデザインという領域・スキルセットを活かすことで、より事業成長を目指すことができるのではないでしょうか?